So-net無料ブログ作成
検索選択
前の10件 | -

CROWN Ⅲ Lesson9/ Optional Reading 和訳 [CROWN Ⅲ]

マイケル・サンデルの教授法は、生徒に、彼らの善悪の感覚を試さなければならない倫理的なジレンマを与えることだ。

倫理的なジレンマは、どちらにしても悪くなると思われる二つの可能性の間から、選択を要求する。たいていは、絶対的に正しかったり間違っていたりする答えは無い。その人が選んだ選択は、その人の全体的な倫理観を反映することになる。最も有名な倫理的ジレンマの一つが、トロッコ問題である。

あなたはトロッコを運転している。トロッコはカーブに差しかかり、あなたは5人の作業員が線路を修理しているのを見る。線路はその時点で谷を走り、左右の斜面は急である。5人の作業員にぶつかるのを避けるためには、トロッコをすぐに止めなければならない。あなたはブレーキをかけるが、ブレーキがきかない。その瞬間、あなたは線路の別れ道が右に伸びているのを見る。あなたはスイッチを切り、別れ道に行くことで、前方のまっすぐの道にいる5人の作業員を救うことができる。しかし、別れ道にも1人、作業員がいる。前方の5人の作業員と同様、別れ道のその作業員も線路から離れて衝突を避ける時間は無い。別れ道に入れば、一人の男性を殺すことになる。

あなたがトロッコの運転手だった場合、どのようにするか。あなたには二つの選択肢しかない。何もしないか、スイッチを切るか。行動しようとしまいと、誰かは死ぬ。

何もしなければ、事故が起こり、5人が死ぬ。スイッチを切れば、事故を避けられるが、そうすることで、1人の死を引き起こす。

故意に他の人の命を奪うことは、果たして正当と認められることなのだろうか。

5人を救うために1人の命を奪わないとしたら、50人を救うためならそうするだろうか。あるいは、500人なら? 5,000人なら?

行うべき正しいこととは何だろうか。

CROWN Ⅲ Lesson9/ Seciton4 和訳 [CROWN Ⅲ]

「ある物が売り買いしてよいと決める時、わたしたちは、それを商品として扱うことを問題ないと思っていることになる。しかし、全てのものがこのような方法で適切に評価されるわけではない。もっとも明らかな例は人間である。奴隷制は、人間を商品として扱い、オークションで売り買いする点で、本当にひどいものだ。そのような取り扱いは、人間を一個の人として、尊厳と敬意に値する存在として、価値づけることができない。それは人間を利益の道具や利用する対象として見ることになる」

「わたしたちは、いかに養子縁組の過程が難しく、気短で裕福な親がいかにそれを希望しようとも、子どもたちを売り買いすることを許しはしない。子どもたちは、消費物ではなく、愛と保護に値する存在として適切に考慮されている」

「あるいは、国民の権利と義務について考えてみよう。わたしたちは、他の者が買い取りたいとしても、国民に投票権を売ることを許さない。なぜ、許さないのか。わたしたちが、国民のなすべきことというのは、個人の所有物ではなく、公の責任であると信じているからだ。それらを売ることは、それらを謝って評価することになる」

「生活の中で価値のあるものの中には、商品化されると、質が落ちるものがある。だから、市場が属する部分と、それが避けられるべき部分を決めるために、わたしたちは、議論の余地がある商品の評価の仕方を決める必要がある。たとえば、それは、健康や教育や家庭生活や自然や芸術、国民の義務である。これらは、倫理的政治的問題であり、単なる経済的な問題ではない。その問題に答えるために、わたしたちは、一つずつ、それらのものの倫理的な意味と、それらのものを価値づける適切な方法を討論しなければならない」

ハーバードの教室に戻ると、サンデル教授は、今日の正義に関する講義を締めくくろうとしている。彼は倫理的な問題を提示し、生徒たちが解決策を探し出そうと苦闘しているとき忍耐強く聞き役に徹してきた。サンデルは、自分自身の見解を議論に持ち出さない。生徒たちは彼ら自身の倫理哲学を発達させなければならない。サンデルはこう説明する。「倫理哲学は一つの物語であり、君たちはそれがどこにつながるのかは分からない。君たちが分かるのは、その物語の中心に君たちがいる、ということだ」

学生のチェルシー・リンクはこう言う。「正義の授業は、ハーバードで、わたしが自分の考えを一度だけでなく何度も変えることで心地よい気分になれる唯一の授業です。わたしは、本当に、知らないという居心地の悪い場所にいなければいけないとことが、大好きなんです」

【語句解説】
commodity「商品」 properly「適切に」 slavery「奴隷制」 auction「オークション」 worthy「(※worthy of~で)~の価値がある」 instrument「道具」 adoption「養子縁組」 prospective「将来性のある」 eager「熱心な」 civic「国民の」 duty「義務」 merely「単に」 pose「持ち出す」 struggle「苦闘する」

CROWN Ⅲ Lesson9/ Seciton3 和訳 [CROWN Ⅲ]

「たとえば、営利のために運営される企業の増加について考えてみよう。そのリストには現在、学校や病院や刑務所が挙がっている。軍事的な作戦でさえ、民間企業に委託されつつある。また、広告が公立学校のバスからカフェテリアまで侵入していることについて考えみよう。公園や公共の場所の命名権の売買についてもだ」

「これら市場を利用して、健康、教育、公共の安全、国家の安全、刑事裁判、環境保護、レクリエーション、そして、他の社会財を配分することなど、30年前はほとんど思いもよらないことだった。今日、わたしたちは、それらを大部分は当然であると思っている」

「なぜ、わたしたちが、あらゆるものが売りに出される社会に向かって進んでいることを心配するのか。理由は二つある。一つは不平等についてであり、もう一つは堕落についてである。まず不平等について考えてみよう。あらゆるものが売られている社会では、生活することが、豊かでない人にとってはより困難になる。お金でより多くのものが買えるようになればなるほど、ますます裕福さ、もしくはそれが欠如していることが、重要になる。裕福さの唯一の利点が、ボートやスポーツカーや、贅沢な休暇を得られるということだったら、収入と富の不平等さは、現在そうであるよりも重要ではなくなるだろう。しかし、お金がますます多くのものを買えるようになると、収入と富の分配はより重要になる」

「わたしたちが全てのものを売りに出すべきではない二つ目の理由は、説明するのがより難しい。それは不平等さや公平についてのことではなく、市場が持つ人を堕落させる影響についてのものだ。生活の中で良い物に値段をつけると、それらは堕落する。それは、市場が単に商品を配分するだけではなく、交換される商品へのある態度を表明し促進してしまうからだ。子どもにお金を払って本を読ませようとすれば、子どもはより本を読むようになるかもしれないが、それは子どもに読書が喜びと成長の源ではなく仕事であると見なすよう教えることにもなるかもしれない。外国人を雇って自国の戦争を行えば、自国国民の生命は守れるかもしれないが、国民であることの意味をおとしめるかもしれない」

「経済学者はしばしば、市場は交換されている商品に影響を与えないと考えている。しかし、これは真実ではない。市場は自らの印を残す。時に、市場価値は大事にされなければならない非市場価値を除外している」

【語句解説】
prison「刑務所」 military「軍の」 private「民間の」 advertising「広告」 allocate「配分する」 safety「安全」 criminal「犯罪の」 protection「保護」 inequality「不平等」 corruption「堕落」 corrupt「堕落する」 regard「みなす」 pleasure「喜び」 hire「雇う」 economist「経済学者」 untrue「真実ではない」

CROWN Ⅲ Lesson9/ Seciton2 和訳 [CROWN Ⅲ]

マイケル・サンデルは、政治哲学が経済学と交差する仕方に興味を持っている。彼の新しい本は、「お金で買えないもの:市場の倫理的限界」というタイトルである。最近の雑誌の記事の中で、彼は市場と市場価値について説明している。

「わたしたちは、ほとんど全ての物が売り買いされる時代に生きている。ここ30年間に渡って、市場と市場価値が、それ以前にないほど、わたしたちの生活を支配するようになっている」

「冷戦が終わると、市場と市場価値が商品の生産と分配を組織するための選ばれし方法となって、それらはまたお金を稼ぐことに非常に成功した。しかし、世界中の国々がますます市場メカニズムを、経済の操作に採用するようになるにつれ、それとは別のことが起こり始めていた。市場価値が社会生活においてますます大きな役割を演じるようになり始めたのだ。今日、市場価値のシステムはもはや物質的な商品にのみ適用されているわけではない。市場価値は生活の全てを支配するようになり始めた」

「今日、わたしたちの市場に対する信頼は揺らいでいる。2008年の金融危機は、市場が倫理から分かたれてしまって、わたしたちはその二つをどうにかしてつなげる必要があるという意識を広めた。しかし、これが何を意味し、わたしたちがどう対処するべきなのか、ということは明らかではない」

「市場的思考の真っただ中に落ちて行く倫理は欲望であって、それは、過大なリスクの引き受けにつながっていった、という人もいる。解決策は欲望を減らし、銀行家たちにより大きな責任を要求し、同様な危機が再び起こることを防ぐ新しい法律を通すことだ」

「欲望が金融危機においてある役割を演じたことは絶対に確実なことであるその一方で、もっと大きなことを考える必要があった。過去30年間で起こった最も大きな変化は、欲望の増加ではなかった。それは、市場と市場価値が、伝統的に非市場的な考えに支配されていた生活の領域にまで侵入したことだった。この状況を修正するため、わたしたちは、欲望に対して単に反対する以上のことを行う必要がある。わたしたちは、市場が所属する場所と、そうではない場所について、みなで討論する必要があるのだ」

【語句解説】
intersect「交差する」 economics「経済学」 article「記事」 decade「10年」 govern「支配する」 chosen「選ばれた」 distribution「分配」 goods「商品」 growing「大きくなりつつある」 mechanism「メカニズム、機構」 social「社会的な」 faith「信頼」 prompt「刺激する」 widespread「広く行き渡った」 greed「欲望」 risk-taking「リスクの引き受け」 banker「銀行家」 prevent「防ぐ」 nonmarket「市場的ではない」 argue「主張する」 debate「討論」

CROWN Ⅲ Lesson9/ Seciton1 和訳 [CROWN Ⅲ]

わたしたちは今ハーバード大学の教室にいる。サンデル教授は、在校生のセミナー受講者と向かい合っているところだ。今日の議論は、黒サイを絶滅から救うことに関する市場計画についてである。2004年、南アフリカ政府は、牧畜業者に黒サイを飼育することを許し、裕福なハンターに数を制限して黒サイを撃つ機会を与える代わりに課金する法律を制定した。ハンターが一頭の黒サイを殺すために150,000ドルもの大金を払うことを辞さないでいることで、牧畜業者は富み、黒サイの数も増え始めている。

「さて」とサンデルは尋ねた。「市場的なアプローチは上手くいっているようであり、矛盾するようだが、一部を殺すことを許可することによって黒サイを守っている。そのシステムに反対する人はどのくらいいるだろうか」

アリス・ウォンは、ニューヨークの4年生で、市場的な解決策に反対している。というのは、彼女が言うには、それは動物が生きて、生存するため、という元々の目的を見失っているからだ。

サンデル「しかし、その結果として、黒サイの数は実際に増加しているんだよ」

ウォン「でも、今生きている黒サイは、狩られるという目的のために維持されているんです。まるで、鳥小屋のにわとりのように」

イタ・ケトルバロウは、イギリスの4年生で、その議論を新しい水準に持っていく。「わたしは、価値あるもの、たとえば地球の生物の多様性を守るためにわたしたちに見つけられる唯一の方法が、それを商品化することだということは悲しいことだと思います」

サンデル「それで、なぜ悲しいんだね」

ケトルバロウ「それは、わたしたちの価値の認め方を損なうことになり、それを誰かの個人的な財産とすることなしに価値のあるものを守ることが絶対にできないということを、示すことになるからです。わたしが悩んでいるのは、時が経つにつれて、わたしたちは、どんなことでも解決する唯一の方法が市場にあるという地点まで至るかもしれない、ということです。すると、わたしたちは他の方法もあるということを忘れるかもしれません」

サンデルは、黒サイが本当には野生的であるわけではないというアリス・ウォンの主張に話を戻す。「それじゃあ、君が言いたいことは、黒サイに値段がつけられて、そういう状況の下で救われると、黒サイの意味が変わるということだね」

ウォン「その通りです。わたしたちは、黒サイが命を持っているという考えに価値を置いていますし、現在の黒サイの状態にも価値を置いていますので、たとえ一頭でも黒サイを殺せば、それに対して妥協することになります」

【語句解説】
undergraduate「在校生」 seminar「セミナー」 rhino「サイ」 extinction「絶滅」 rancher「牧畜業者」 wealthy「裕福な」 hunter「ハンター」 willing「嫌がらない」 prosper「繁栄する」 paradoxically「矛盾するようだが」 coop「鳥小屋」 commodify「商品化する」 assign「割り当てる」 property「財産」 argument「主張」

CROWN Ⅲ Lesson9/ Before You Read 和訳 [CROWN Ⅲ]

マイケル・サンデルはハーバード大学の教授であり、1980年から政治哲学を教えている。彼の正義に関するコースは大学内で最も人気のあるコースのうちの一つだ。15,000人を超える生徒がそのコースを履修してきた。そのコースはテレビの連続授業になった。2010年に日本で放送されると、マイケル・サンデルは一夜にして有名人になった。ニューヨーク・タイムズは彼のことをアジアのロックスターと呼んだ。

彼の著書「正義:何を為すべきなのか」は、現代におけるもっとも厄介な問題の一つに対する政治哲学からの大きな疑問を扱っている。より最近に出版された著書である「お金で買えないもの:市場の倫理的限界」は、著書「正義」で大まかに示された倫理原則を、21世紀の市場経済に適用している。

【語句解説】
sale「販売」 justice「正義」 lecture「授業」 troublesome「厄介な」 principle「原理」 outline「概要を述べる」

CROWN Ⅲ Lesson3/ Optional Reading 和訳 [CROWN Ⅲ]

天野医師は外科医として類まれな技術を持っている。しかし、医師としての成功の道は他にもある。

ここに外科医としての仕事を追い求めたいという希望を持っていた別の医師がいる。彼が学生だった頃、ラグビーをしているときに、何度も骨折して、そのせいで、外科医になる決心をした。1987年に医大を卒業すると、彼は、ある病院で研修医となった。彼は思い出す。「研修医のときの研修は、本当に地獄のようなものでした。普通は10分程度しかかからないような簡単な種実を行うのに、わたしには1時間以上も必要だったのです。わたしは、完全に、外科医としての能力を欠いていました」 かつて彼がある手術のアシスタントになったとき、彼の同僚の一人は彼を馬鹿にして、こう言った。「おまえは、アシスタントじゃなくて、レジスタント(抵抗する者)だな」

しかし、臨床の経験によって、彼は最高の医師でさえ治療することができない、多くの病気や怪我があることを知った。彼は、基礎医学の研究が、現代の医療では適切な治療を施すことができない患者を助けるために必要とされていることに気がついた。1993年、彼はアメリカに渡った。彼は患者を治療することをやめて、注意を研究へと向けた。

それから約20年後、2012年に、この医師は、体のどのような組織にも成長する可能性を持つ、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を、開発したことによって、ノーベル生理学・医学賞が与えられた。彼の名前は山中伸弥といい、京都大学の教授である。山中教授は言う。「わたしは、大きな責任感を感じています。というのは、医師として、これまでただ一人の命さえ救うことができなかったからです。わたしは、本当に、わたしたちの新発見が医学上の目的に利用したいと思っています」

しかし、iPS細胞の開発は、すぐに、さまざまな病気に対しての万能薬を提供してくれるわけではない。5年か、あるいは10年のさらなる研究の年月が必要だろう。しかし、山中教授は言う。「わたしは、患者に希望を諦めてほしくはないんです」と。天野医師と山中医師は、異なった道を歩んだが、同じモットーを持っている。それは、「患者が常に優先する」というものだ。

CROWN Ⅲ Lesson3/ Section3 和訳 [CROWN Ⅲ]

「あなたは毎日、心臓が重篤な状況にある患者を診て、病院でほとんどの時間を過ごしています。患者に関わるために、あなたがしていることは何かありますか」
 患者と良好な関係を築くこと、そうして、彼らの信頼を勝ち取ることは、医師にとっては非常に重要なことです。わたし自身は、患者の心臓の音を聴くときに、聴診器を手で温めてから彼らの胸に当てるようにしています。それから、わたしは患者にわたしの心臓の音を聴いてもらい、両者の違いを知ってもらうようにします。これをわたしは、医師であるわたし自身と患者の間にある距離を縮めるためにやっています。患者は手術のために自分の命が失われるかもしれないと知っている状態で来ているということを理解しなければならず、そのため、わたしたちは、そのような困難な決定をなした人々へ敬意を持つ必要があります。

「出る杭は打たれると言われます。世界で最高の心臓外科医の一人として、打たれたことはありますか」
 そうですね、今挙げられたことわざは一部分しか事実ではないと言いたいですね。出る杭が打たれるときはあるかもしれませんが、それは少ししか出ていないときです。杭が、残りの杭よりもはるかに高い位置まで出ていたら、決して打たれはしません。そう考えることで、わたしは若い野心的な外科医にやる気を持たせることができることを望んでいます。

「ライバルはいますか。もしかして、ブラック・ジャックでしょうか」
 大鐘稔彦氏の書かれた漫画の主人公である当麻鉄彦の名を挙げたいと思います。当麻はどういうわけか、わたしに、かつてわたしが若く野心的な外科医だった頃のことを思い出させてくれます。彼は可能な限り最善の手術を行うことによって、患者と家族を幸福にするためにベストを尽くそうとします。ライバルというよりは、彼は、わたしがそうなりたいと思っている種類の外科医の理想像なのかもしれません。

【語句解説】
relationship「関係」 chest「胸」 due「(due toで)~が理由で」 nail「釘」 hammer「ハンマーで打つ」 proverb「ことわざ」 aspiring「野心的な」 rival「ライバル」 Black Jack「ブラック・ジャック(※手塚治虫の描く漫画のキャラクター)」 ideal「理想的な」

CROWN Ⅲ Lesson3/ Section2 和訳 [CROWN Ⅲ]

「お父様を亡くされたことはあなたにとっては痛烈な打撃だったはずです」
 はい、ひどいものでした。わたしが手術をしたわけではありませんが、父の死にはわたし自身が責任を感じずにはいられませんでした。同時に、わたしは、父が自分の命を犠牲にして、わたしに外科医としてなすべきでないことを教えてくれたように感じました。わたしは、わたしの助けを必要としている多くの患者の命を救うために、技術のある外科医になれるよう、できることは何でも行うことに決めました。病院で一日の仕事を終えた後、わたしは夜通し縫合の練習をしていました。素晴らしい外科医がいると聞けばいつでも、わたしは彼らに会いに行って、その手術を観察しました。わたしは、彼らに、自分が完全に満足するまであらゆる種類の質問を行いました。その当時からずっと、わたしは、外科医として常に技能を向上させることのみを考えています。

「それでは、お父様の死から多くのことを学ばれたんですね」
 はい、その通りです。ご存知の通り、非常にかすかなミスでさえ、患者を危険にさらす可能性があります。これは、おそらくは、わたしが父の死から学んだ重要な教訓の一つでしょう。わたしは出会う患者の一人一人全ての命に責任があることが分かっていますので、彼らの命を救うために可能な限り最善の努力をしています。わたしは、「近道をしようとするな。ただなすべきことをこなせ」と、自分に言い聞かせています。「妥協」という言葉は、わたしの辞書にはありません。

「あなたのことを『神の手を持つ外科医』と呼ぶ人もいます。そのことについては、どのように感じていますか」
 そうですね、この比喩はわたしにとっては意味がないと思っています。本当に必要なのは、「神の手」ではなく、手術前の注意深い計画と、状況を計算し予想する能力です。わたしはこれまでに6,000件を超える手術をこなしてきて、この経験によって、危機的な状況で取るべき一連の行動を予想しやすくなっています。手術においては、起こるかもしれないどのような状況にもすばやく性格に対応できるように、五感を最大限使うことが重要です。

【語句解説】
blow「一撃」 devastating「壊滅的な」 sacrifice「犠牲にする」 skilled「技能のある」 stitch「縫合する」 single-minded「一心の」 absolutely「絶対に」 slight「かすかな」 responsible「責任のある」 compromise「妥協」 metaphor「比喩」 calculate「計算する」 critical「危機的な」 respond「反応する」 occur「発生する」

CROWN Ⅲ Lesson3/ Section1 和訳 [CROWN Ⅲ]

「いつ医師になることを決めたのですか」
 子どもの頃、腹痛になったり熱を出したりするといつも、母がわたしを、たまたまわたしの親戚の一人だった小児科医のもとに連れて行きました。どういうわけか、わたしはその医師の医学書や聴診器に魅了されました。しかし、わたしが初めて将来の仕事として医師になることについて考えたのは、高校生の時のことでした。

「医師になるのはたやすいことではないと知られています。あなたにとってはどうでしたか?」
 そうですね、わたしも例外ではなかったと言わなければなりません。高校時代、わたしはどんなクラブ活動も行わず、入試に備えるために塾にさえ行っていました。しかし、3年連続で入試に落ち、ようやく合格したときにはすでに21歳になっていました。今から考えてみると、入試に失敗したことは、結局のところ、悪いことではありませんでした。それによって、医師になるはっきりとした決意を固める機会を得られたからです。

「医学部で勉強を終えたのち、あなたは医師になりました。学校卒業後、あなたはどのような道に進まれたのですか」
 友人の多くは大学病院で医療スタッフとして働き始めましたが、わたしは違った道を選びました。わたしは、患者との接触をより多く持つことになるであろう総合病院で働くことを希望したのです。そうすれば、わたしは、外科医としての技術を高められるだろうと考えました。そこで、わたしは総合病院で仕事を探し始め、何度か断られたのちに、ようやく一つ勤め口を見つけました。

「心臓手術のあと、お父さんを亡くされたとお聞きしました。その件は、外科医としてのあなたに、何かしらの点で影響を与えましたか」
 はい、確かに与えました。父は心臓病に苦しんでおり、その時までに二度の手術を行っていました。わたしが31歳のとき、父の状況は人工弁を取り替えなければならないほど、悪化していました。わたしは、最初から最後までその手術を見ていましたが、手術中、問題が次から次へと続きました。一週間後、父は亡くなりました。66歳でした。

【語句解説】
pediatrician「小児科医」 relative「親戚」 stethoscope「聴診器」 exception「例外」 cram「詰め込む(※cram schoolで塾)」 consecutive「連続した」 determination「決意」 training「訓練」 staff「スタッフ」 general「総合的な」 reject「拒絶する」 position「勤め口」 surgery「外科手術」 definitely「絶対に」 suffer「苦しむ」 extent「程度」 artificial「人工の」 valve「弁」
前の10件 | -